2017年7月31日月曜日

東博「タイ~仏の国の輝き~」を観覧


7月27日(木)BACの精鋭8名が東博でタイの仏像を観覧した。タイは
上座部仏教の国であり、釈迦像以外の仏像はあるのだろうか、菩薩像は
あるのだろうかと想像を巡らしながら、訪れた。
今回の特別展は日タイ修好130周年記念に開催されている。明治20年
(1887年)から今年で130年となる。
特別展パンフレットおもて面 なか面 部分

特別展は五章構成となっている。
 第1章 タイ前夜 古代の仏教世界
 第2章 スコータイ 幸福の生まれ出づる国
 第3章 アユタヤー 輝ける交易の都
 第4章 シャム 日本人の見た南方の夢
 第5章 ラタナコーシン インドラの神の宝蔵

タイ仏教美術の時代区分を図録解説に基づき列挙すると以下の通りとなる。
また、該当するエリアは下記地図に〇印を付した。
 ☆タイに仏教文化が伝来した時代(4世紀~6世紀)
 ☆ドヴァ―ラヴァティー美術<7世紀~11世紀>
 ☆シュリーヴィジャヤ美術 <7世紀~13世紀>
 ☆クメール美術(タイ国内) <7世紀~13世紀>
 ☆ロッブリ―美術       <13世紀~14世紀>
 ☆ハリプンチャイ美術    <8世紀~13世紀>
以上が 「第1章 タイ前夜 古代の仏教世界」に該当する時代
*地図はすべて図録から抜粋
上記時代に該当のエリア

タイ人にとって最初の王朝スコータイがタイ国の源流と意識されているとのこと。
 ①スコータイ美術(13世紀中頃~15世紀中頃)
 ②ラーンナー美術(14世紀初~16世紀中頃)
 ③アユタヤー美術(14世紀中頃~18世紀中頃)
 ④ラタナコーシン美術(18世紀中頃~現在)

各美術様式に該当するエリア
①          ② ③


これだけの仏教美術が時代に応じて、いろんな地域で花開いた歴史を知ると、
タイの仏像に対して興味も深まる。特別展で印象に残った仏像、仏具は、
次の通り。

【1.タイ前夜 古代の仏教世界】
 入館して、最初に眼にする像はナーガ上の仏陀坐像(①)。ヤマタノオロチ
 のような蛇が鎌首をもたげ、傘のようになっている。これは、悟りを得た仏陀
 が瞑想する間、龍王ムチリンダが傘となり、仏陀を雨風から守ったという仏伝
 に基づいてつくられた仏像だそうだ。東南アジアでは、水と関係する蛇の神
 ナーガを龍王と同一視している。いかにも、南方の国の仏像らしい。

*画像はすべて図録から抜粋
①ナーガ上の仏陀坐像
シュリーヴィジャナ様式
12世紀末~13世紀

 大きな石造の法輪(②)と法輪柱は迫力満点。これだけ大きな法輪を、仏法の
 象徴として、礼拝していたのかと想像した。(高さ130㎝) 

②法輪
ドヴァ―ラヴァティー時代
7世紀 石造
 仏陀や法輪以外に菩薩はいないだろうかと観覧していると、素朴な土製の
 菩薩立像を目にした。菩薩立像は大乗仏教の仏であり、宗教の変遷を感じた
 像と言える。
 
③菩薩立像  ④菩薩立像
ドヴァ―ラヴァティー時代
7世紀 (土製)7世紀前半 
 
 多臂の観音像(⑤)や金剛薩埵像(⑥)、更には金剛杵(⑦)、金剛鈴(⑧)
 から密教が信仰されていたことも分かる。
 観音菩薩立像(⑤)は、髻を高く、正面の化仏もはっきりとし、顔だちも
 若々しい見事な像だ。

 金剛薩埵像(⑥)は左右の手が腰の辺りに置かれている。この手の置き方
 特徴らしい。右手は胸前にして金剛杵を握る姿勢が一般的のようだ。
 金剛杵、金剛鈴の形状は、日本の法具と大分違っている。突起している部分が
 曲がっており、鋭さに欠けるように感じる。
 
⑤観音菩薩立像  ⑥金剛薩埵坐像
シュリーヴィジャヤ様式  アンコール時代
8~9世紀・青銅  12~13世紀・青銅

⑦金剛杵   ⑧金剛鈴
アンコール時代 12~13世紀・青銅
 【2.スコータイ】
 典型的なスコータイ様式の仏像のひとつが仏陀坐像(⑨)。図録での解説
 によると「卵型の顔、両耳は先端と耳たぶの先がやや外向きに広がり、
 伏し目で、唇は上下の輪郭を凹ませ口角をわずかに上げて、笑みを
 たたえる。こんもりとした肉髻の上にラッサミーと呼ばれる火焔飾りを
 つける。」

 更に、「肩幅は広く、脇腹をぐっとすぼめ、右手は降魔印を結び、左手は
 腹前で掌を上に向け、左足の上に右足を乗せる勇猛坐(ゆうみょうざ)の
 形で坐している。」

 筋肉の抑揚に乏しい、のっぺらぼうとしたような造形は皆、同じように見えて
 しまいます。しかし、仏陀遊行像(⑩)は、体型と動きがぴったりしている
 ように感じられた。
 お釈迦様が遊行される姿を彷彿させる像だ。ラッサミーがマッチする。

⑨仏陀坐像      ⑩仏陀遊行像
スコータイ時代 15世紀  14~15世紀
青銅、金       青銅


【3.アユタヤー】 
 金ぴかと顔だちに特徴がある。仏陀立像(⑪)、仏陀坐像(⑫)の両方とも、
 大きな口をしており、裂けたような形をしている。どんな意味があるのか
 興味深い。坐像の姿勢はスコータイ像と同じになっている。
 ⑪仏陀立像   ⑫仏陀坐像
アユタヤー時代 15世紀・金

 仏陀像の中で、注目した像が仏陀坐像(⑬)と宝冠仏陀坐像(⑭)。両者とも
 印相は降魔印。⑬は台座の前に女神が悩ましいポーズで座っている姿が
 興味深い。これは仏陀が地の女神トラニーを呼び、自らの前世の徳を証明して
 もらうシーンのようだ。

 ⑭宝冠仏陀坐像からは禅宗の宝冠釈迦如来を連想させる。宝冠釈迦如来は
 華厳経の廬舎那仏と同一視された。この宝冠仏陀は仏教を保護し、仏法で国
 を治める国王と結びつける王権思想を反映しているようだ。

⑬仏陀坐像       ⑭宝冠仏陀坐像
アユタヤー時代
16~17世紀・青銅、金  17~18世紀・青銅

【4.シャムと日本】
 第4章では日本との交易を中心に、アジア航海図、山田長政関連などの展示
 があった。仏像では、長崎・是心寺に伝わる仏陀立像(⑮)が印象に残った。
 顔だち、頭頂部などいかにもタイの仏像らしい。スカートのような着衣が
 南方風と言える。
⑮仏陀立像
(長崎・是心寺)
アユタヤー時代17世紀・青銅、金

【5.ラタナコーシン】
 本特別展での見どころの一つに、ラーマ2世王作の大扉(⑯)がある。両開き
 の扉の右扉。扉にはたくさんの動物が彫られている。この前では記念撮影が
 許可されている。

 象に乗る三尊像(⑰)が興味深い。三体とも、同じ姿勢をしている。勇猛坐、
 降魔印。この三尊像は中尊と脇侍ではなく、全員仏陀ではないかと想像を
 巡らす。象を台座とする仏像は、日本では普賢菩薩か帝釈天。

⑯ラーマ2世王作の大扉  ⑰騎象仏陀三尊銀像
ラタナコーシン時代  ラーンナータイ様式
19世紀・木製、金、彩色  20世紀・木胎、銀

 最後に、日本最初の上座仏教僧との解説を読んだ。 
 釈興然(しゃく こうねん)は単身セイロンに渡り、修行し、日本で上座仏教
 の僧団を作られたお坊さんとのことだ。釈興然が請来した仏像の中の一体
 が現在神奈川県の三會寺の所蔵となっている。模範的なタイの仏像だ。
 ぜひ、今度はお寺でお目にかかりたい。

⑱仏陀坐像
(神奈川・三會寺)
ラタナコーシン時代 1903年
釈興然 請来

今回の特別展を通して、タイの仏像に親しみを感じるようになった。タイと
言う国にも関心と興味が広がった。タイの仏教についても、もう少し調べて
みようと思った。タイの国宝から贈られた仏舎利を祀る日泰寺にも機会を
作り、ぜひ参詣したい。




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