「馬頭観音(5月24日)」「准胝観音(30日)」「不空羂索観音
(6月5日)」「如意輪観音(11日)」に続き、今回は「千手観音」
を取り上げる。
1.三十三間堂の千手観音像
千手観音の圧倒的なパワーを感じるお寺は、京都東山の蓮華王院
三十三間堂が筆頭に挙げられる。文字通り三十三間、120mも
ある世界一長い木造建築の寺院だ。
中央に、像高3mを越える本尊・千手観音坐像(❶)が鎮座され、
両側に千体千手観音立像(❷)が林立する。これほど壮観な内陣
はない! 堂内1032体の仏像はすべて国宝と言うのも凄い。
千手観音には二十八部衆と言う眷属(❸)が従う。他の観音に、
眷属はいるのだろうか? 千手観音がこれだけ多くの眷属に守護
されるとは、千手観音のVIPぶりを物語っている。二十八とは
方位ごとに配置する眷属の合計数(❸に計算式)。
2018年に千体千手観音が国宝に指定された。また、その年に、
風神、雷神の左右配置換えや、二十八部衆の改名や配置換えも
行われた。現在の配置図は❹の通り。
従前は、中尊の周りを四天王が囲んでいた(❹図の13、14、15
16の位置)。今は、梵天、帝釈天や大弁功徳天(吉祥天)などが
囲む形になっている。
また、千体千手観音立像が1001体となっているのは、中尊の
裏側に、中尊と背中合わせになって、1体安置されている(❹)。
❶本尊と堂内仏 ❷千体千手観音立像
❸二十八部衆 ❹堂内配置図
2.千手観音の特徴
千手観音の手は本当に千本あるのだろうか? 本当に千本ある像も
ある。そのような像を「真数千手(しんすうせんじゅ)」と言う。
しかし、一般的には、四十二臂(ひ)の像が多い(❺)。
なぜ、四十二臂か? 胸前で合掌する二臂を除くと、残り四十臂と
なる。一つの手で25の世界を救うとされている。25とは、仏教
の宇宙観で天上界から地獄まで25の世界がある。
[40の手×25の世界=1,000]で「千手」と同じ働きをする
ことになる。また、<千>は無数を意味し、観音の慈悲の力を最大
強調したものと言われている。
千手(あるいは四十二臂)以外の特徴としては、頭上が十一面と
なっていることや合掌印の印相を結んでいること(❺)。
❺千手観音の特徴・解説
3.千手観音の持物(じもつ)
仏像を特定する時、参考になるのが持物。持物が羂索の仏像なら
不空羂索観音か不動明王ではないかと想像する。宝剣を持つ仏像
なら、文殊菩薩か不動明王かと考える。
千手観音ほど、多種多様な持物を持つ仏様はいない(❻、❼)。
蓮華は4色もある。青蓮華(しょうれんげ、右6)、白蓮華
(びゃくれんげ、右15)、紅蓮華(ぐれんげ、左7)、紫蓮華
(しれんげ、右14)。いずれも仏の世界に近づく功徳か?
数珠(右18)、錫杖(右19)、羂索(左18)などは、よく目に
する持物。中には髑髏(左12)のような珍しいものもある。
❻千手観音の持物(右) ❼持物(左と両手)
4.「真数千手」の観音像
(1)大阪・葛井寺像(❽、❺)
合掌する2本の手と1039本の大小脇手がある。1000
を優に超える。2018年2月「仁和寺と御室派のみほとけ」
特別展を、東京国立博物館で観覧した。
葛井寺像は、その特別展に出陳されていた。360度の観覧。
大小の脇手は、大きなリュックを背負うようにも見えた。お堂
で拝観する時と違った楽しみ方が博物館にはある(❽)。
なお、正式名称は「十一面千手千眼(せんげん)観世音菩薩」と
言う。千眼は、千手の手の中に、眼がある。
❽大阪・葛井寺像
(2)奈良・唐招提寺像(❾、❿)
平成12年(2000)、金堂の修理が行われる際、千手観音
は脇手を外さないと外に出せないとのことで、解体修理された
とのことだ。
最後に、付けられた手を探し出して、そこから外して行く。手
は前後で層を成しているから、順番を間違えると外れない。
修理した手は、逆の順番で組み付ける。一つ間違えると一から
やり直しとのことだ。<芸術新潮 2015年5月号>
42本の大型の手、911本の小脇手(❿)を見ると、解体、
組み付けの大変さが容易に想像できる。
❾奈良・唐招提寺像 ❿同左像 千手の解体図
(3)京都・寿宝寺像、福井・妙楽寺(⓫、⓬)
寿宝寺像(⓫)の脇手は、アコーディオンを二つ背負っている
ように見える。また、照明によって顔の表情がまるで違うのに
は、驚く。閉じていた眼が開かれるようだ。
妙楽寺像(⓬)の特徴は、薪を束ねたように見える千の脇手と
二十四面と言える。頭上に二段、二十一面あり、正面の本面と
二つの脇面を入れて合計二十一面となる。長いこと、秘仏で
あったとのことであり、金箔も良く残っている。
両像とも国の重文に指定された、貴重な「真数千手」の像だ。
⓫京都・寿宝寺像 ⓬福井・妙楽寺
5.その他、国宝の千手観音像、ユニークな千手観音像
(1)国宝千手観音像(⓭、⓮)
現在、国宝にしてされている千手観音像は、先にご紹介の像を
含め8件1,008躯(⓭)。
四十二臂の一般的な千手観音の中で、代表的格が興福寺像(⓮)。
5mを越える巨像であり、その迫力は唐招提寺像(❾)と競う。
⓭国宝千手観音像一覧 ⓮奈良・興福寺像
(2)ユニークな千手観音像(⓯、⓰)
千手観音の中でも独特な姿をしたのが京都・清水寺お前立像。
本尊が秘仏のため、厨子の前に秘仏を模したお前立像が立つ。
「清水型」千手観音と称され、両脇左右上方の腕を、頭上に
伸ばし、化仏を両手で捧げ持つ(⓯)。
ユニークと言うより、「異形(いぎょう)」と言う言葉の方
がぴったり来る像が滋賀(長浜)・正妙寺(しょうみょうじ)
の千手千足観音像(⓰)。
足まで千本にするとは、それだけ、早く来てほしいとの願い
に応えたものだろう。この像は、東京藝大の美術館でお目に
かかった。
⓯京都・清水寺お前立像 ⓰滋賀(長浜)正妙寺像
【観音シリーズ】 つづく
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