6月17日(土)午前10時から、西荻地域区民センター協議会主催の
「仏像講座」が開催され、55名のご参加があった。今回のテーマは
仏像を制作時代別に区分し、時代毎に特徴と代表的仏像(国宝・重文)
を何躯かご紹介する。
講座の様子 今回のテーマ
1.時代区分と制作技法の推移
時代区分は「飛鳥、白鳳、天平、弘仁・貞観、藤原、鎌倉」の6時代
とした。この時代区分は「大和路のみ仏たち」(大橋一章、森野勝 著)
によるものを使わせて頂く。
制作技法については、「銅造、木造、塑造、乾漆造」と4つに分け、
更に、乾漆造は「脱活乾漆、木心乾漆、木造乾漆併用」の3分類で
代表作を紹介した。
「木造」については「一木造、寄木造」の2分類に、素材として「クス、
カヤ、ヒノキ」が主流となっていたこと時期も加えた。ただし、中宮寺の
菩薩半跏像のように、特殊な寄木となっているものは例外として、考慮
していない。
仏像彫刻での時代区分 時代別制作技法
2.飛鳥寺、法隆寺などの創建
仏教伝来時の蘇我氏、物部氏の争いや、聖徳太子ゆかりの寺院など
をご紹介し寺院が一族の氏寺であったことを説明した。「いつ頃、誰が、
何のために創建したか」の縁起を知ることで、尊像の観方も違ってくる。
飛鳥寺の創建 聖徳太子建立の寺
3.飛鳥仏、白鳳仏の顔と特徴
飛鳥期と白鳳期では仏像のお顔が明らかに違う。それぞれ、
「北魏様式」と「白鳳期の特徴」として、解説した。また、同じ
飛鳥期と言えども、広隆寺の宝冠弥勒や法隆寺の百済観音は
北魏様式とは違ったお顔をされている。伝来ルートが違うようだ。
飛鳥仏の顔 白鳳仏の顔
4.興福寺の歴史
遷都の度に、お寺の所在地が移動する。興福寺の場合、大津京の
頃に、山階寺(やましなでら)として、創建され、飛鳥京となると、
厩坂寺(うまやさかでら)となり、平城京遷都となり、興福寺となった。
「山階寺、厩坂寺は今、どうなっていますか」とのご質問があった。
今は、跡だけで、お寺は無いのではないかと答える。念のため、後程、
確認したところ、間違いなく跡地のみとなっており、お寺は存続して
いない。
興福寺となった後、伽藍がどのように整備されて行ったかも触れた。
特に、西金堂(さいこんどう)の建立と、阿修羅造立の逸話には、皆さん
熱心に聴かれていた。南円堂建立の背景に藤原冬嗣と弘法大師空海
の接点があった逸話もご披露した。
興福寺の歴史(変遷) 興福寺堂塔の創建
5.薬師寺の創建推移
藤原京に創建された薬師寺は、平城京遷都に伴い、移転した。
これは興福寺と同じ。東塔は藤原京から移築されたものか、平城京
で新築されたものかが、長年論争され決着した記事を紹介した。
年輪年代測定でいつ伐採された木材かが分かる。初層(1階)天井や
心柱について測定したところ、平城京遷都(710年)より、後のもの
(729、730年や719、720年)であり、新築説が確定した。
金堂の薬師三尊像も同様に、白鳳期に造立されて、移動したのか、
天平期の造立かが問題となっている。天平期造立説を後押しする
ことになるのだろうか。
薬師寺創建推移 薬師寺東塔の記事
6.天平期の仏像例(塑造、乾漆造)
天平期には銅造、塑造、乾漆造(脱活乾漆造、木心乾漆造)と名品が
多い。写実性の完成と精神性の高さを感じる。
四天王立像 阿修羅立像/不空羂索観音立像
東大寺戒壇堂 興福寺/東大寺法華堂
7.弘仁・貞観期の仏像例
反天平・反写実の造形、量感豊かになり、均衡を破るような誇張も
見られる。(①) 材質が木心乾漆造から一木造へなって行った。(②)
密教尊像は木造乾漆併用が多い。(③)
天平期制作の十一面観音は木心乾漆造の名品。奈良・聖林寺像、
京都・観音寺像は、いずれも美しい人気の高い像で有名。一方、
弘仁・貞観期の十一面観音では、奈良・法華寺像、奈良・室生寺像は
木像カヤ材となっている。(②)
①薬師如来坐像・立像
福島 勝常寺/奈良 元興寺
②十一面観音立像 ③持国天立像/如意輪観音坐像
奈良 法華寺/奈良 室生寺 京都 東寺/ 大阪 観心寺
8.藤原期の仏像例
穏やかな作風で貴族好みの像が多く作られた。代表的な仏師は定朝。
末法思想で造仏が多くなされ、寄木造が編み出された。
不動明王/阿弥陀如来 九体阿弥陀如来/馬頭観音
京都 同聚院/京都 平等院 京都 浄瑠璃寺/福岡 観世音寺
9.定朝と正系三派の仏師、慶派仏師代表作
運慶、快慶がどのような系譜の仏師かを系図で解説した。定朝の
流れを汲む仏師は院派、円派は京仏師、慶派は奈良仏師。平氏の
時代から源氏の時代に変わり、今まで不遇であった慶派が一躍脚光を
浴びる。
定朝と正系三派 慶派仏師の代表作
10.鎌倉期 運慶、快慶の作品例
運慶、快慶はじめ、康慶(運慶の父)、湛慶(運慶の長男)などの
代表作を紹介した。運慶展が9月末に、東博で開催される。観覧が
今から楽しみとなる。
大日如来坐像 弥勒菩薩坐像/阿弥陀三尊像
奈良 円成寺 京都 醍醐寺/兵庫 浄土寺
終了後、ご質問タイムを設けた。タイなど東南アジアに良くお出かけに
なる方からのご質問に、「日本の仏像と東南アジアの仏像は全く違う。
どうして違うのか?」
日本でも時代が変われば、像容も変化してきた。時代毎に好みの
容貌も違い、造像に反映されてきた。国が違えば、好みや求めるものも
違うのではないだろうか。仏像には、第一印象も大事なように思うと
個人的な意見も言わせて頂いた。
ある仏師の方が「彫刻家」と「仏師」の違いに、次のことを言われた。
「仏師は100人見る人がいたら限りなく100人に近い人何かを伝える
ものを作らなければならない。」
一方、彫刻家(芸術家)について、「芸術の仕事は100人見る人が
いたとして、何かを感じる人が何人いるかは問題ではない。自らの想い
を形にすることが重要」とのこと。大変含蓄のある言葉と感じた。
最後まで、熱心にお聴き頂いたご参加者、今回の講座を企画された
協議会役員の方々に感謝し、報告を終える。
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