2020年10月9日金曜日

中尊と脇侍・眷属<千手観音>


如来を中尊とする三尊像や眷属を整理してきた。中尊となるのは如来だけ
ではない。今回は、千手観音を中尊とする三尊像や眷属についてまとめて
みたい。

1.千手観音を中尊とする三尊像
  千手観音の脇侍像については、数パターンを目にする。具体的な事例
  で確認したい。

 A.婆藪仙・吉祥天の両脇侍
  千手観音の脇侍に婆藪仙(ばすせん)と吉祥天を配置した仏画を目にし
  たことがある(❶)。この両脇侍は仏教における基本ルールとも聞く。

  婆藪仙とは、殺生の罪を犯し地獄に落ちるも、釈迦の教えに帰依して、
  修行を続ける仙人(バラモン僧)。独特な風貌、痩せ細ってガリガリの
  体形は大変インパクトがある。一方、吉祥天は美と芸術、施福の女神
  として馴染み深い。

  2尊の対比は男vs女、老vs若、質実vs華麗、清貧vs豊穣、修行vs慈善
  など様々なイメージが湧く。婆藪仙は「智慧」、吉祥天は「慈悲」の
  象徴ではないかと思える。<彫像での像容は❻参照>
婆藪仙と吉祥天の両脇侍

 B.不動明王・毘沙門天の両脇侍
  不動明王と毘沙門天を両脇侍にする形式は、天台系の寺院に多いようだ。
  滋賀・正明寺(しょうみょうじ)の千手観音及び両脇侍像については、
  天台系の名残りとある(❷)。

  延暦寺横川中堂の本尊は聖観音を中尊に、不動、毘沙門を脇侍とする三尊
  としており、「横川形式」と呼ばれている。これには、伝説がある。即ち、
  慈覚大師・円仁が入唐時に海難に会った。観音を念じると、観音の化身と
  して毘沙門天が出現し、嵐が静まった。

  比叡山に戻った円仁は一堂を建立し、観音と毘沙門天を祀った。その後、
  弟子の良源不動を加えて三尊にしたとのこと。これで横川形式三尊の
  成立になった。中尊の観音菩薩は、聖観音もあれば、十一面観音、千手
  観音と様々ある。
❷不動明王と毘沙門天の両脇侍

 C.不動明王・降三世明王の両脇侍と
   二十八部衆の眷属
  2018年1月~3月、東京国立博物館で開催の「仁和寺と御室派の
  みほとけ」展を観覧した。その時に、撮影した写真が❸、❹。これは
  仁和寺の観音堂を再現したものである。

  中尊・千手観音の両脇侍が「降三世明王」と「不動明王」となっている。
  いかにも、密教的な尊像と言える。左右に、二十八部衆が並び、観る者
  を圧倒する。さながら曼荼羅の世界のようにも見える。
❸脇侍の不動明王像     ❹脇侍の降三世明王像

 D.地蔵菩薩・毘沙門天の両脇侍
  京都・清水寺では本尊・千手音の両脇侍が「地蔵菩薩」と「毘沙門天」に
  なっている。これも、比叡山の「横川形式」と同様の伝説がある。

  坂上田村麻呂が蝦夷征伐へ赴く際に、延鎮上人は、地蔵菩薩と毘沙門天を
  彫って、武運を願った。戦場で全滅覚悟の中、観音に祈り続けると、どこ
  からともなく、僧侶老翁が現れ救ってくれた。二人は地蔵菩薩と毘沙門
  天が姿を変えて現れた。

  無事に帰還した田村麻呂は本尊・千手観音の両脇侍に地蔵菩薩と毘沙門天
  を安置し、現在に続く清水寺の三尊形式が誕生したと言う。残念ながら
  三尊とも秘仏のため、お目に掛れない。

  従って、千手観音の脇侍については、その寺独自の縁起があることが良く
  分かる。必ずしも、儀軌によるものではないようだ。
  
2.三十三間堂の二十八部衆
  全国の「千手観音と二十八部衆」の中で最も有名で、かつ圧倒的な存在感
  を感じさせる寺院は、京都の三十三間堂だと思う。2018年に1001体の
  千手観音立像が国宝に指定され、堂内1032体すべての尊像が国宝となる。

  また、2018年には、尊像の改名や配置換えも行われた。この改名や、
  配置換えを行うに至った経緯については別途確認したい。

  堂内の仏像配置がどのように変わったを比較し、まとめてみた(❺)。最初
  に気づくことは「風神・雷神」の位置が入れ替わった。これで、俵屋宗達
  風神雷神図と同じ構図になる(❼)。俵屋宗達は、三十三間堂の風神・雷神
  をモデルにした。

  次に、中尊を囲む4体に注目した。旧配置13-東方天、14-毘楼勒叉天
  (びるろくしゃてん)、15-毘楼博叉天(びるばくしゃてん)16-毘沙門天
  となっている。つまり四天王が囲んでいる形になっている。

  現配置では、13-婆藪仙、14-大弁功徳天(吉祥天)、15-帝釈天王、16
  -大梵天王となっている。特に前面の一番目立つところに、婆藪仙と吉祥天
  が配置され、中尊の脇侍のようになっている(❻)。

  二十八部衆については、分からないことがたくさんある。詳しく調べて、別
  の機会にまとめたい。
❺三十三間堂内 現旧の仏像配置図

❻三十三間堂中尊像と眷属  ❼尾形光琳作 風神雷神図


【中尊と脇侍・眷属シリーズ 続く】






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