11月25日(土)午後1時から阿佐谷地域区民センター協議会主催の
仏像講座「仏像の観方・楽しみ方」が開催された。今年が5年目となる。
今回のテーマは「仏師と仏像 ~運慶・快慶を中心に~」
寺院や仏像に対して念頭にあるのは、いつ頃、誰が、何のために造立した
のだろうかと言うこと(発願者など)であり、制作者である仏師にまで
考えることはあまりない。
運慶・快慶の登場で、仏師への関心が一気に高まる。そこで、今回の
テーマは仏師にスポットを当てながら仏像の観方・楽しみ方を整理した。
(画像②)
①講座開講直後の会場 ②仏像の観方・楽しみ方 内容
1.飛鳥、白鳳、天平時代の仏師(画像③、④)
飛鳥や白鳳時代の仏師はそれぞれの豪族に属し、各豪族が造立する
寺院ごとに仏像を制作していたようだ。代表的な仏師として蘇我氏に
所属する止利仏師が有名。大化改新で蘇我氏が滅ぶと、止利様式の
仏像も見られなくなった。
天平時代には官営工房が組織され、国家事業として仏像が制作された。
国中連公麻呂は造東大寺次官であり、造仏長官に任じられている。
仏師と言うより、官僚ではないだろうか。また、興福寺の阿修羅像はじめ
とする乾漆像を制作した将軍万福も、この当時の仏師として有名。
飛鳥~天平期の仏師は、いずれも「渡来系」と言うことが共通しており、
技能者、技術者のイメージが強い。
③時代区分と代表的な仏師 ④飛鳥‐天平の仏師と作品
2.平安時代の仏師(画像⑤、⑥)
官営工房が解体され、平安時代は多様な系統の仏師が登場する。
密教の造仏に携わる仏師(東寺講堂の諸仏など)、天平の写実に対して、
反写実的な造形をする仏師(神護寺や元興寺などの薬師如来)などと
密教系や革新系の仏師も現れて来る。
その後、僧名を名乗る仏師集団が工房を形成、10世紀末には康尚が
大規模な私的工房を構え、講師(こうじ)と言う僧職にも就いた。
白河天皇の造仏記録(画像⑦)を見ると、造仏界の慌ただしさ、仏師の
活躍ぶりが想像できる。
⑤平安初期の造仏界 ⑥平安各期の造仏
⑦白河天皇の造仏記録
3.定朝と定朝正系三派(画像⑧、⑨)
運慶・快慶に繋がる開祖的仏師と言えば定朝。そして、定朝正系三派が
どのような系図となっているか示した。
特に、平重盛による南都焼き打ち後の復興当初に活躍した仏師として、
院派では院尊、円派では明円、そして慶派では康慶の名前が挙がる。
これは、後程、東大寺や、興福寺の復興で一番活躍した仏師は誰か
について専門家のご意見を紹介することと関係する。
⑧定朝正系三派の大仏師 ⑨慶派仏師の系統図
4.山本勉氏による運慶仏認定の基準(画像⑩)
全国には運慶作と称する仏像をたくさん見かける。そこで、先ずは専門家
が運慶作と認める仏像は何体あって、どんな基準で選ばれているのかと
いう事を話した。現在13件31体となっている。
⑩山本勉氏 運慶仏認定基準
5.運慶仏発見トピックスの紹介(画像⑪~⑭)
運慶仏は明治の中頃までは東大寺南大門の仁王像だけだったそうだ。
それが、今や31体と数多く増えている。
発見トピックスは神奈川仏教文化研究所のホームページに掲載された
朝田純一氏の表を活用させて頂いた。
合わせて、山本勉氏の基準に従い、(● ■ □ △)の表示を入れてみた。
誰が、いつ、運慶仏発見をしたかの経緯が分かり、大変興味深い。
⑪運慶仏発見トピックスNo.1 ⑫運慶仏発見トピックスNo.2
⑬運慶仏発見トピックスNo.3 ⑭運慶仏発見トピックスNo.4
6.東大寺、興福寺の復興造像における運慶・快慶 (画像⑮~⑰)
南都復興の造像担当者を見ると、慶派の仏師が目立つ。
最大の功労者は誰かについて、群馬女子大学教授の塩澤寛樹氏が
『仏師たちの南都復興』で論じている。それは、康慶や運慶では
なく、院尊としている。ご興味のある方、理由を知りたい方は、
ぜひ、ご一読をお勧めする。
いずれにしても、南都復興が運慶・快慶が登場してくる大きな
舞台となったことは間違いない。
⑮東大寺復興造営経緯 ⑯東大寺諸尊像制作担当
⑰興福寺復興 諸尊像制作割当
7.運慶・快慶の事績と南都復興(画像⑱、⑲)
現存する運慶・快慶の作品の中で、一番最初と最晩年の作品に
ついて言及した。
運慶は、1176年制作の奈良・円成寺 大日如来坐像、1216年
制作の神奈川・称名寺光明院 大威徳明王坐像となる。
快慶は、1189年制作のボストン美術館所蔵弥勒菩薩立像、
1221年制作の和歌山・光臺院 阿弥陀三尊像となる。
南都復興に登場する人物、大勧進の重源上人、後白河法皇、
源頼朝、後鳥羽上皇などとの関りも興味深い。
⑱運慶・快慶の事績No.1 ⑲運慶・快慶の事績No.2
8.運慶・快慶の事績に繋がる人たち(画像⑳~22)
運慶作品は鎌倉幕府に繋がる人たちからの発願によるものが多い。
一方、快慶は、重源上人の阿弥陀信仰同胞であり、重源上人が関連
する寺院の造像が多く見られる。
⑳運慶仏と鎌倉幕府 21運慶仏と三浦一族
22重源の七別所
運慶・快慶に対する関心・興味は尽きない。今後、更なる発見がある
のではないかと期待して止まない。
運慶や快慶を知る上で参考となり、面白かった図書
『ほとけを造った人びと』 (根立研介 吉川弘文館)
『仏師たちの南都復興』 (塩澤寛樹 吉川弘文館)
『運慶 リアルを超えた天才仏師』 (山本勉 他 新潮社)
『運慶 その人と芸術』 (副島弘道 吉川弘文館)
『運慶と鎌倉仏像』 (瀬谷貴之 平凡社)
『日本美術全集7 運慶・快慶と中世寺院』 (山本勉 他 小学館)
『日本仏像史講義』 (山本勉 別冊太陽)
『大和路のみ仏たち』 (大橋一章、森野勝 グラフ社)
『荒仏師 運慶』<小説> (梓澤 要 新潮社)
その他 月刊誌 、特別展図録
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