9月21日(金)は、生憎の雨模様。悪天候にも関わらず大勢の方が
参加された。西荻窪19名、荻窪5名、小平7名の総勢31名となる。
中嶋莉恵さんの講演会は今回で4度目となる。「仏像彫刻のお仕事」
をテーマに、3項目についてお話し頂いた。
最初に「閻魔王像制作 ~乾漆づくり~」、二番目に「大日如来像の
台座、光背制作」、そして最後に「創作活動」。
講演される中嶋さん
講演会を拝聴する参加者の皆さん
1.閻魔王像制作 ~乾漆づくり~
奈良・興福寺 阿修羅像の制作技法が脱活乾漆づくり。
その技法との比較で、閻魔王像制作を解説して頂いた。
「脱活乾漆づくり」とは・・・①
a.土で大まか形を作り、そこに漆で麻布を貼り付ける。
b.乾いたら、中の土を掻き出し、空洞にし木組みを入れる。
c.表面をパテ状の木屎漆(こくそうるし)で成型し、彩色する。
①興福寺 阿修羅像は脱活乾漆づくり
閻魔王像の制作技法は、乾漆づくりと言っても、阿修羅像とは
全く違う。粘土原型(②)は完成の形まで仕上げる。(阿修羅像
では粘土は大まかな形)。制作の工程が次の通り違う。
石膏の粉を水で混ぜ、②の原型の型を取る。その石膏型の
内側に、漆や麻布の張り込みをする。その際、石膏から乾漆
が剥がれやすくするための離型剤を予め塗っておくとのこと。
漆が張り込められた石膏型(③)の補強と変形を防ぐために、
芯木制作がなされる。今回ヒノキが使用された。期間をおいて、
石膏型に蓋をして接着する。(④)その際、乾漆部分に特定の
接着材を塗る。
②粘土原型
③石膏型の芯木制作 ④蓋をして接着
次に、石膏割り出し(⑤)となる。蝋型鋳造で、周りの土を
取り除くと、金銅仏が出現する場合と良く似ている。
石膏割り出しの場合は、石膏が固く、乾漆は脆く、神経を
使うようだ。
割り出し後に見事な閻魔王像が現れた。(⑥) 伝統的な
乾漆像づくりと異なる手順に驚く。 この技法を編み出した
背景と理由について、もっと詳しく知りたいところだ。
粘土原型の再使用はあるのだろうか?
⑤石膏割り出し ⑥石膏割り出し後
最終段階として、彩色へ移る。彩色の前に、白土を塗り、
下地をつくるとのこと。天然顔料を何回も重ねて塗り、色に
深みを出して行く。(⑦) 閻魔王像の冠、肩、袖などには
繧繝彩色(うんげんさいしき)の技法が使われている。
完成した閻魔王像は、川崎市登戸の光明院本堂に鎮座
されている。(⑧)
⑦天然顔料による彩色 ⑧光明院に鎮座する閻魔王像
<繧繝彩色についての解説>
繧繝彩色とは、淡い色から濃い色へ色をぼかさず、
段階的に変化させる事を基本とし、対比的に色を
組み合わせることで、立体感や色彩効果をあげる
彩色装飾技法の事。基本色は紺・丹・緑・紫(こん・たん・ろく・し)。対比の
補色を組み合わせる技法。紺には丹、緑には紫を
合わせる。奈良時代以降の技法と聞いて、先人の
技量に、只々感服。
閻魔王像を拝観する時には、この繧繝彩色を、最初に
眺めたい。
2.大日如来像の台座、光背制作
大日如来像の台座、光背制作の経緯が大変興味深い。
東京藝術大学所蔵・快慶作大日如来像の模刻像は
中嶋さん勤務の工房社長が、東京藝大在学中に制作
された像とのこと。
この模刻像をお寺のご住職が気に入られた。快慶作像は、
もともと台座・光背を失っている。(模刻像も台座・光背は無い)
そこで、台座・光背の制作を求められることとなった。
何をモデルや基準に、制作されたか興味津々で拝聴した。
光背の制作過程を順追って、解説された。図面制作から
始まり、木取り(⑨)、図面転写(⑩)、刳り抜き、透かし彫り
の刳り抜き(⑪)、仕上げのポイントを話された。
⑨制作する光背の木取り
⑩画像転写 ⑪透かし彫りの刳り抜き
二重円光の周りの透かし彫りの雲を配置し、雲の中には
胎蔵曼荼羅の五仏四菩薩が化仏として荘厳される。(⑫、⑬)
台座には足利・光得寺の大日如来ように、獅子を配置する。
何と豪華な光背になることだろうかと想像した。
智拳印の大日如来像の光背に、胎蔵界の五仏・四菩薩を
配したのは、「金胎不二」の思想を反映した構成と推察した。
「金胎不二とは金剛界と胎蔵の両部は二つでありながら
一体である」とする真言密教教学の根本思想と学んだこと
がある。
⑫化仏の原型づくり ⑬化仏の乗った光背
お寺のお堂に安置された大日如来像は、どんなにか眩い
輝きを放つことかと想像した。完成が待たれる。
最後に、創作活動について、お話し頂いた。高島屋や三越
での展示会には、良く足を運ぶ。いずれも、ふわふわした
感触をイメージさせるの可愛い小鳥だ。木彫とは思えない
ような柔らかい表現が凄い。
中嶋さんの作品はいずれも、ソフトな手触りを感じさせる。
「雨上がりのロバ」が気に入っており、今では、私のパソコン
デスクトップ壁紙となっている。
一番最近の作品 ニットバード
高島屋に展示の作品 ニットバード2作目
講演を終えた後、質疑応答の時間を設けた。参加者から沢山の
質問が出た。一つ一つ、丁寧にお答え頂いた。参加の皆さんから
楽しく学べたとの感想を多く頂いた。伝統技法と現代最新技法との
融合を知ることができ、大変素晴らしい講演会だった。
中嶋さんは工房での仏像彫刻制作・修復、彫刻家としての創作活動、
美術教師のお仕事と、六面八臂のご活躍をされている。第5回目の
講演会を楽しみにしている。(合掌)
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