本日、三井記念美術館「奈良 西大寺展」を荻窪グループの皆さんと
一緒に観覧した。5月25日(木)には、西荻窪グループで観覧しており、
2度目となる。
特別展も明日(6月11日)が最終日となるためか、入場前から長い列が
できていた。今回は、浄瑠璃寺の吉祥天立像が出陳されており、見どころ
の一つとなっている。
特別展チラシ(文殊菩薩)
「西大寺展 叡尊と一門の名宝」に出て来るキーワードを並べると・・・
「興法利生(こうぼうりしょう)」、「戒律と密教」、「密教と修法具」、
「戒律と舎利信仰」等。また、叡尊の信仰や活動を反映する諸尊像として
「釈迦如来」「文殊菩薩」「愛染明王」「聖徳太子」「弘法大師」などが
挙げられる。
展示室ごとに印象に残った作品についてまとめた。(写真は図録から)
【展示室1:密教と修法具】
一番目を引いたのは厨子入りの愛染明王坐像。銅造鍍金の愛染明王は
掌に載る程の大きさで、念持仏にしたいような像だ。(①)
叡尊造立の西大寺・愛染明王は、タイミングが合わず、観覧の機会を逸した。
②密教法具は中央に五鈷鈴、その周りを囲むように五鈷杵、三鈷杵、
独鈷杵が並べられている。法具を載せる盤を金剛盤と言う。金剛鈴は
仏性を覚醒するため、金剛杵は仏敵を降伏させるもの。いずれも精緻
にできている。
①重文・愛染明王坐像(厨子入り) ②密教法具(西大寺)
(称名寺・金沢文庫保管)
【展示室2:戒律と舎利信仰】
戒律が一番守られていたのは釈迦存命中。戒律復興は原典回帰、釈迦の
時代を模範にすることとなる。そのシンボルが仏舎利。埋葬していた
仏舎利が、眼に触れるものとなり、容器も豪華になっていったと思われる。
③国宝 金銅透彫舎利容器
(西大寺)
【展示室4:(1)西大寺の創建から平安時代まで
今回の出陳仏像で一番古い作品は、奈良時代制作の塔本四仏坐像の2躯。
④釈迦如来坐像と⑤阿弥陀如来坐像。4躯一具として造立されたものであり、
尊名は後でつけられたようだ。
木心乾漆像であり、奈良時代に流行した制作技法。経年による仏像表面の
状況は聖林寺の十一面観音と良く似ている。釈迦より、阿弥陀の方が優しい
眼差しに見えた。
重文 塔本四仏坐像
④釈迦如来坐像 ・ ⑤阿弥陀如来坐像
(西大寺)
【展示室4:叡尊の信仰と鎌倉時代の復興】
展示室4の目玉は興正菩薩坐像(⑥)と文殊菩薩坐像(⑦)。
興正菩薩坐像は昨年、国宝に指定された。叡尊80歳の寿像
(存命中の肖像彫刻)。眉毛が特徴的。
この西大寺像はかくしゃくとした印象がある。一方、並んで展示
されていた白毫寺像は、どことなく寂しさを漂わせた風貌だった。
⑦文殊菩薩坐像は渡海文殊五尊像の中尊。文殊菩薩は叡尊が
信仰していた尊格の一つであり、叡尊の十三回忌に弟子たち造立した。
文殊菩薩信仰は、弟子の忍性からの影響が大きいようだ。忍性は
文殊菩薩の化身と言われた行基を尊敬していた。
興正菩薩坐像、文殊菩薩坐像のいずれも像内納入品が多く、尊像の
歴史的、文化的価値を一層高めている。
行基、叡尊、忍性はいずれも、社会福祉事業に熱心に取り組んだこと
で有名だ。文殊菩薩と言えば、智慧の仏としての印象を強く持っていた。
智慧と言うより、慈悲の仏と思われる。
⑥国宝 興正菩薩坐像 ⑦重文 文殊菩薩坐像
(西大寺)
展示室4で印象に残った像として⑧毘沙門天立像の邪鬼。踏まれっぷりが
見事。顔の歪みが半端でない。叡尊の住房に安置されていたと伝わっている。
叡尊はいつも、この邪鬼を眺めていたのだろうか。
聖徳太子像(⑨)の孝養像(十六歳像)や二歳像も展示されている。
釈迦信仰は、仏教を興隆させた聖徳太子信仰へ繋がる。また聖徳太子は
観音の化身と言う考えから如意輪観音像も大事にされた。
⑧毘沙門天立像 ⑨重文 聖徳太子立像
(西大寺) (元興寺)
【展示室7:(1)真言律宗ー山の名宝】
真言密教と言えば開祖、弘法大師 空海。元興寺像(⑩)はいつも、
眼にする顔だちの空海(東寺像など)と違い、エネルギッシュで若々しい
印象を持った。
岩船寺の普賢菩薩騎象像は、岩船寺参詣の際、三井記念美術館に
出張中のため、拝観できなかった。東京でご対面できるとは嬉しい。
大倉集古館像に良く似た造形だ。
しかし、こちらの普賢菩薩は少し細身で女性的な印象。六牙の象は
上目遣いの優しい目をしていた。
⑩重文 弘法大師坐像 ⑪重文 普賢菩薩騎象像
(元興寺) (岩船寺)
麗しの仏、凛々しい仏は吉祥天立像(⑫)と地蔵菩薩立像(⑬)。
共に浄瑠璃寺像。
(地蔵菩薩は東博に寄託) 吉祥天像は6日から11日の6日間だけ展示。
秘仏で厨子入りとなっているため、彩色も鮮やかに残っている。妖艶な
雰囲気を醸し出す魅力的な女尊だ。像の前にはロープが張られ、大勢の
人達に囲まれていた。
地蔵菩薩立像は延命地蔵と呼ばれ、柔和な表情は何とも言えない安らぎを
感じる。浄瑠璃寺には、この像より少し大きめで、像容も似た像が安置されて
いる。まさに美男美女の仏様と言える。
⑫重文 吉祥天立像 ⑬重文 地蔵菩薩立像
(浄瑠璃寺)
一際存在感のある像が白毫寺の太山王坐像。冥界で死者を裁く十王の
一人。閻魔王が五七日(三十五日)の裁判官であるのに対し、七七日
(四十九日)の裁判官。いわば最高裁の裁判官に当たるのが太山王。
穏やかな仏と違った強面が魅力となっている。司命半跏像(⑮)、
司録半跏像(⑯)のちょっと不気味な雰囲気も効果的。
⑭重文 太山王坐像
⑮重文 司命半跏像 ・ ⑯重文 司録半跏像
(白毫寺)
【展示室7:(2)忍性と東国の真言律宗】
東国の真言律宗については、昨年11月、金沢文庫「忍性菩薩展」で、
多くの仏像を観覧した。叡尊は西国を布教し、忍性は叡尊の弟子として
東国を任された。
忍性像⑰)の風貌は、師である叡尊像と共通し、一度お目にかかると
忘れないような強烈な印象が残る。また、文殊菩薩信仰、釈迦信仰が
⑱、⑲の造像となっている。
⑰忍性菩薩坐像
(極楽寺)
⑱文殊菩薩坐像 ⑲重文 釈迦如来立像
(極楽寺) (称名寺 金沢文庫保管)
特別展の最後に展示されている福島県いわき市の長福寺 地蔵菩薩
坐像(⑳)が重要文化財の指定を受けた経緯を知って驚いた。この像は
東日本大震災で損傷し、保存修理が施された折に、像内納入品から
造像経緯が知られ、震災の翌年平成25年(2013)に指定となったとの
ことだ。
震災が重文指定へと繋がったとは不思議な巡り合わせを感じる。
「災い転じて福となす。」 罹災した人たちが物理的、精神的にも、震災
から復興し、過去の出来事として語れるような日が到来することを願って
止まない。
⑳重文 地蔵菩薩坐像
(長福寺・福島県)
(金沢文庫保管)
ご一緒した西荻窪グループの17名、荻窪グループの13名の皆さん、
いかがでしたか?また、ご感想をお聴かせください。