2017年6月25日日曜日

予告:なかのZEROホール 「仏像の観方・楽しみ方」

 
中野区友愛クラブ連合会主催「シニア大学」講座の一つとして、「仏像の観方・
楽しみ方」が設けられました。 本年1月に教養部長の松本様にお会いし、
ご依頼を受けました。
 
「なかのZEROホール」での講演会は、今回が2度目となります。一昨年の
7月に、広い会場に大勢の方が来られ、大変熱心にお聴き頂いたことが
思い出されます。
 
今回は会場を、大ホールとされています。主催者のご期待に沿えるよう、
ご来場の皆様に満足して頂けるよう、精一杯務めさせて頂く所存です。
 
中野区友愛クラブ連合会作成のPRチラシ
 


2017年6月18日日曜日

西荻地域区民センターで仏像講座開催


6月17日(土)午前10時から、西荻地域区民センター協議会主催の
「仏像講座」が開催され、55名のご参加があった。今回のテーマは
仏像を制作時代別に区分し、時代毎に特徴と代表的仏像(国宝・重文)
を何躯かご紹介する。

講座の様子         今回のテーマ

1.時代区分と制作技法の推移 
  時代区分は「飛鳥、白鳳、天平、弘仁・貞観、藤原、鎌倉」の6時代
  とした。この時代区分は「大和路のみ仏たち」(大橋一章、森野勝 著)
  によるものを使わせて頂く。

  制作技法については、「銅造、木造、塑造、乾漆造」と4つに分け、
  更に、乾漆造は「脱活乾漆、木心乾漆、木造乾漆併用」の3分類で
  代表作を紹介した。

  「木造」については「一木造、寄木造」の2分類に、素材として「クス、
  カヤ、ヒノキ」が主流となっていたこと時期も加えた。ただし、中宮寺の
  菩薩半跏像のように、特殊な寄木となっているものは例外として、考慮
  していない。
仏像彫刻での時代区分      時代別制作技法

2.飛鳥寺、法隆寺などの創建 
  仏教伝来時の蘇我氏、物部氏の争いや、聖徳太子ゆかりの寺院など
  をご紹介し寺院が一族の氏寺であったことを説明した。「いつ頃、誰が、
  何のために創建したか」の縁起を知ることで、尊像の観方も違ってくる。
飛鳥寺の創建        聖徳太子建立の寺

3.飛鳥仏、白鳳仏の顔と特徴
  飛鳥期と白鳳期では仏像のお顔が明らかに違う。それぞれ、
  「北魏様式」と「白鳳期の特徴」として、解説した。また、同じ
  飛鳥期と言えども、広隆寺の宝冠弥勒や法隆寺の百済観音は
  北魏様式とは違ったお顔をされている。伝来ルートが違うようだ。
飛鳥仏の顔         白鳳仏の顔

4.興福寺の歴史
  遷都の度に、お寺の所在地が移動する。興福寺の場合、大津京の
  頃に、山階寺(やましなでら)として、創建され、飛鳥京となると、
  厩坂寺(うまやさかでら)となり、平城京遷都となり、興福寺となった。

  「山階寺、厩坂寺は今、どうなっていますか」とのご質問があった。
  今は、跡だけで、お寺は無いのではないかと答える。念のため、後程、
  確認したところ、間違いなく跡地のみとなっており、お寺は存続して
  いない。

  興福寺となった後、伽藍がどのように整備されて行ったかも触れた。
  特に、西金堂(さいこんどう)の建立と、阿修羅造立の逸話には、皆さん
  熱心に聴かれていた。南円堂建立の背景に藤原冬嗣と弘法大師空海
  の接点があった逸話もご披露した。
興福寺の歴史(変遷)      興福寺堂塔の創建

5.薬師寺の創建推移
  藤原京に創建された薬師寺は、平城京遷都に伴い、移転した。
  これは興福寺と同じ。東塔は藤原京から移築されたものか、平城京
  で新築されたものかが、長年論争され決着した記事を紹介した。

  年輪年代測定でいつ伐採された木材かが分かる。初層(1階)天井や
  心柱について測定したところ、平城京遷都(710年)より、後のもの
  (729、730年や719、720年)であり、新築説が確定した。

  金堂の薬師三尊像も同様に、白鳳期に造立されて、移動したのか、
  天平期の造立かが問題となっている。天平期造立説を後押しする
  ことになるのだろうか。
薬師寺創建推移       薬師寺東塔の記事

6.天平期の仏像例(塑造、乾漆造) 
  天平期には銅造、塑造、乾漆造(脱活乾漆造、木心乾漆造)と名品が
  多い。写実性の完成と精神性の高さを感じる。
四天王立像           阿修羅立像/不空羂索観音立像
東大寺戒壇堂         興福寺/東大寺法華堂

7.弘仁・貞観期の仏像例 
  反天平・反写実の造形、量感豊かになり、均衡を破るような誇張も
  見られる。(①) 材質が木心乾漆造から一木造へなって行った。(②) 
  密教尊像は木造乾漆併用が多い。(③)

  天平期制作の十一面観音は木心乾漆造の名品。奈良・聖林寺像、
  京都・観音寺像は、いずれも美しい人気の高い像で有名。一方、
  弘仁・貞観期の十一面観音では、奈良・法華寺像、奈良・室生寺像は
  木像カヤ材となっている。(②)
  
①薬師如来坐像・立像
福島 勝常寺/奈良 元興寺

     ②十一面観音立像    ③持国天立像/如意輪観音坐像
奈良 法華寺/奈良 室生寺  京都 東寺/ 大阪 観心寺

8.藤原期の仏像例
  穏やかな作風で貴族好みの像が多く作られた。代表的な仏師は定朝。
  末法思想で造仏が多くなされ、寄木造が編み出された。
不動明王/阿弥陀如来       九体阿弥陀如来/馬頭観音 
京都 同聚院/京都 平等院   京都 浄瑠璃寺/福岡 観世音寺

9.定朝と正系三派の仏師、慶派仏師代表作
  運慶、快慶がどのような系譜の仏師かを系図で解説した。定朝の
  流れを汲む仏師は院派、円派は京仏師、慶派は奈良仏師。平氏の
  時代から源氏の時代に変わり、今まで不遇であった慶派が一躍脚光を
  浴びる。

定朝と正系三派       慶派仏師の代表作

10.鎌倉期 運慶、快慶の作品例 
  運慶、快慶はじめ、康慶(運慶の父)、湛慶(運慶の長男)などの
  代表作を紹介した。運慶展が9月末に、東博で開催される。観覧が
  今から楽しみとなる。
大日如来坐像       弥勒菩薩坐像/阿弥陀三尊像
奈良 円成寺       京都 醍醐寺/兵庫 浄土寺

終了後、ご質問タイムを設けた。タイなど東南アジアに良くお出かけに
なる方からのご質問に、「日本の仏像と東南アジアの仏像は全く違う。
どうして違うのか?」

日本でも時代が変われば、像容も変化してきた。時代毎に好みの
容貌も違い、造像に反映されてきた。国が違えば、好みや求めるものも
違うのではないだろうか。仏像には、第一印象も大事なように思うと
個人的な意見も言わせて頂いた。

ある仏師の方が「彫刻家」と「仏師」の違いに、次のことを言われた。
「仏師は100人見る人がいたら限りなく100人に近い人何かを伝える
ものを作らなければならない。」

一方、彫刻家(芸術家)について、「芸術の仕事は100人見る人が
いたとして、何かを感じる人が何人いるかは問題ではない。自らの想い
を形にすることが重要」とのこと。大変含蓄のある言葉と感じた。

最後まで、熱心にお聴き頂いたご参加者、今回の講座を企画された
協議会役員の方々に感謝し、報告を終える。


2017年6月10日土曜日

三井記念美術館「奈良 西大寺展」観覧 ‼


本日、三井記念美術館「奈良 西大寺展」を荻窪グループの皆さんと
一緒に観覧した。5月25日(木)には、西荻窪グループで観覧しており、
2度目となる。

特別展も明日(6月11日)が最終日となるためか、入場前から長い列が
できていた。今回は、浄瑠璃寺の吉祥天立像が出陳されており、見どころ
の一つとなっている。
特別展チラシ(文殊菩薩)

「西大寺展 叡尊と一門の名宝」に出て来るキーワードを並べると・・・
「興法利生(こうぼうりしょう)」、「戒律と密教」、「密教と修法具」、
「戒律と舎利信仰」等。また、叡尊の信仰や活動を反映する諸尊像として
「釈迦如来」「文殊菩薩」「愛染明王」「聖徳太子」「弘法大師」などが
挙げられる。

展示室ごとに印象に残った作品についてまとめた。(写真は図録から)

【展示室1:密教と修法具】
 一番目を引いたのは厨子入りの愛染明王坐像。銅造鍍金の愛染明王は
 掌に載る程の大きさで、念持仏にしたいような像だ。(①) 
 叡尊造立の西大寺・愛染明王は、タイミングが合わず、観覧の機会を逸した。

 ②密教法具は中央に五鈷鈴、その周りを囲むように五鈷杵、三鈷杵、
 独鈷杵が並べられている。法具を載せる盤を金剛盤と言う。金剛鈴は
 仏性を覚醒するため、金剛杵は仏敵を降伏させるもの。いずれも精緻
 にできている。
①重文・愛染明王坐像(厨子入り) ②密教法具(西大寺)
      (称名寺・金沢文庫保管) 

【展示室2:戒律と舎利信仰】
 戒律が一番守られていたのは釈迦存命中。戒律復興は原典回帰、釈迦の
 時代を模範にすることとなる。そのシンボルが仏舎利。埋葬していた
 仏舎利が、眼に触れるものとなり、容器も豪華になっていったと思われる。
③国宝 金銅透彫舎利容器
(西大寺)

【展示室4:(1)西大寺の創建から平安時代まで
 今回の出陳仏像で一番古い作品は、奈良時代制作の塔本四仏坐像の2躯。
 ④釈迦如来坐像と⑤阿弥陀如来坐像。4躯一具として造立されたものであり、
 尊名は後でつけられたようだ。
 
 木心乾漆像であり、奈良時代に流行した制作技法。経年による仏像表面の
 状況は聖林寺の十一面観音と良く似ている。釈迦より、阿弥陀の方が優しい
 眼差しに見えた。
重文 塔本四仏坐像 
④釈迦如来坐像 ・ ⑤阿弥陀如来坐像
(西大寺)

【展示室4:叡尊の信仰と鎌倉時代の復興】 
 展示室4の目玉は興正菩薩坐像(⑥)と文殊菩薩坐像(⑦)。
 興正菩薩坐像は昨年、国宝に指定された。叡尊80歳の寿像
 (存命中の肖像彫刻)。眉毛が特徴的。
 この西大寺像はかくしゃくとした印象がある。一方、並んで展示
 されていた白毫寺像は、どことなく寂しさを漂わせた風貌だった。

 ⑦文殊菩薩坐像は渡海文殊五尊像の中尊。文殊菩薩は叡尊が
 信仰していた尊格の一つであり、叡尊の十三回忌に弟子たち造立した。
 文殊菩薩信仰は、弟子の忍性からの影響が大きいようだ。忍性は
 文殊菩薩の化身と言われた行基を尊敬していた。

 興正菩薩坐像、文殊菩薩坐像のいずれも像内納入品が多く、尊像の
 歴史的、文化的価値を一層高めている。

 行基、叡尊、忍性はいずれも、社会福祉事業に熱心に取り組んだこと
 で有名だ。文殊菩薩と言えば、智慧の仏としての印象を強く持っていた。
 智慧と言うより、慈悲の仏と思われる。

⑥国宝 興正菩薩坐像  ⑦重文 文殊菩薩坐像
(西大寺)  

 展示室4で印象に残った像として⑧毘沙門天立像の邪鬼。踏まれっぷりが
 見事。顔の歪みが半端でない。叡尊の住房に安置されていたと伝わっている。
 叡尊はいつも、この邪鬼を眺めていたのだろうか。
 聖徳太子像(⑨)の孝養像(十六歳像)や二歳像も展示されている。
 釈迦信仰は、仏教を興隆させた聖徳太子信仰へ繋がる。また聖徳太子は
 観音の化身と言う考えから如意輪観音像も大事にされた。
     
⑧毘沙門天立像 ⑨重文 聖徳太子立像
(西大寺)  (元興寺)

【展示室7:(1)真言律宗ー山の名宝】
 真言密教と言えば開祖、弘法大師 空海。元興寺像(⑩)はいつも、
 眼にする顔だちの空海(東寺像など)と違い、エネルギッシュで若々しい
 印象を持った。

 岩船寺の普賢菩薩騎象像は、岩船寺参詣の際、三井記念美術館に
 出張中のため、拝観できなかった。東京でご対面できるとは嬉しい。
 大倉集古館像に良く似た造形だ。
 しかし、こちらの普賢菩薩は少し細身で女性的な印象。六牙の象は
 上目遣いの優しい目をしていた。

⑩重文 弘法大師坐像    ⑪重文 普賢菩薩騎象像
 (元興寺)        (岩船寺)

 麗しの仏、凛々しい仏は吉祥天立像(⑫)と地蔵菩薩立像(⑬)。
 共に浄瑠璃寺像。
 (地蔵菩薩は東博に寄託)  吉祥天像は6日から11日の6日間だけ展示。
 秘仏で厨子入りとなっているため、彩色も鮮やかに残っている。妖艶な
 雰囲気を醸し出す魅力的な女尊だ。像の前にはロープが張られ、大勢の
 人達に囲まれていた。

 地蔵菩薩立像は延命地蔵と呼ばれ、柔和な表情は何とも言えない安らぎを
 感じる。浄瑠璃寺には、この像より少し大きめで、像容も似た像が安置されて
 いる。まさに美男美女の仏様と言える。
⑫重文 吉祥天立像  ⑬重文 地蔵菩薩立像
(浄瑠璃寺)

 一際存在感のある像が白毫寺の太山王坐像。冥界で死者を裁く十王の
 一人。閻魔王が五七日(三十五日)の裁判官であるのに対し、七七日
 (四十九日)の裁判官。いわば最高裁の裁判官に当たるのが太山王。

 穏やかな仏と違った強面が魅力となっている。司命半跏像(⑮)、
 司録半跏像(⑯)のちょっと不気味な雰囲気も効果的。
⑭重文 太山王坐像 

⑮重文 司命半跏像  ・  ⑯重文 司録半跏像
(白毫寺)

【展示室7:(2)忍性と東国の真言律宗】
 東国の真言律宗については、昨年11月、金沢文庫「忍性菩薩展」で、
 多くの仏像を観覧した。叡尊は西国を布教し、忍性は叡尊の弟子として
 東国を任された。
 忍性像⑰)の風貌は、師である叡尊像と共通し、一度お目にかかると
 忘れないような強烈な印象が残る。また、文殊菩薩信仰、釈迦信仰が
 ⑱、⑲の造像となっている。

⑰忍性菩薩坐像
(極楽寺)

 ⑱文殊菩薩坐像  ⑲重文 釈迦如来立像
(極楽寺)  (称名寺 金沢文庫保管)

 特別展の最後に展示されている福島県いわき市の長福寺 地蔵菩薩
 坐像(⑳)が重要文化財の指定を受けた経緯を知って驚いた。この像は
 東日本大震災で損傷し、保存修理が施された折に、像内納入品から
 造像経緯が知られ、震災の翌年平成25年(2013)に指定となったとの
 ことだ。

 震災が重文指定へと繋がったとは不思議な巡り合わせを感じる。 
 「災い転じて福となす。」  罹災した人たちが物理的、精神的にも、震災
 から復興し、過去の出来事として語れるような日が到来することを願って
 止まない。

⑳重文 地蔵菩薩坐像
(長福寺・福島県)
(金沢文庫保管)

ご一緒した西荻窪グループの17名、荻窪グループの13名の皆さん、
いかがでしたか?また、ご感想をお聴かせください。