6月10日(日)2時から杉並稲門会主催「仏像の観方・楽しみ方」講演会
が開かれた。「稲門会」とは早稲田大学の同窓会のことであり、杉並区
には7つのブロックで構成される支部組織があるそうだ。
あいにくの雨にもかかわらず、41名のご参加があった。ほぼ9割は
男性の皆さん。今までの講演会では大半が女性であり、慈悲深い
観音菩薩のような優しい眼差しを感じて話した。
今日は事情が違う。智慧の文殊菩薩のような透徹した視線や怒りの仏
不動明王の険しい視線を浴びての講演になるのではないかと、勝手な
想像を巡らした。
ご参加者には・・・
・法隆寺釈迦三尊像の原型再現プロジェックに携わった方
・ご実家が高野山塔頭寺院の方
・杉並郷土史会の新村会長
・今回の講演会を企画され、仏像に造詣の深い山口さん 始め
講演会テーマに関連する分野で専門的知識をお持ちの方々が
眼前に並んでいる。
ところが、講演会開始早々、不安も一掃される。皆さん温かい眼差しで、
大変熱心に耳を傾けて頂いた。さすが、早稲田大学! 人格者揃い‼
熱心にお聴きになるご参加の皆さん
1.仏像は仏さま、文化財?(第一のテーマ)
「仏像の観方・楽しみ方」で最初にお話しするのは仏像の接し方(①)。
「仏さま」か「文化財」か、捉え方で接し方も異なってくる。
しかし、その線引きは難しいし、むしろ分けられないようにも思える。
度重なる戦乱や火災を逃れて、護られた仏像は仏さまとして大事に
されたからに他ならない。地中に埋められ、戦禍を免れた仏像もある。
有難いことに、1000年、1500年も祀られている仏さまも数多い。
仏像を文化財と認識したのは、明治期のフェノロサや岡倉天心によって
であり、100数十年の歴史しかない。廃仏毀釈の嵐が過ぎた後の事だ。
文化財として問題になるのは保存と公開のバランス。文化財を観光資源
として活用しようとする文化財保護法改定が検討されている。保護が疎か
になりかねないと改定を危惧する声が上がっている。先人の功績が台無し
にならないことを祈る。
①仏像の接し方
2.仏像は何のために造られたのか? (第二のテーマ)
一般的な彫刻は、作者が伝えたいことを作者の感性で造形したものである。
一方、仏像は経典や儀軌によって造形の決まりがある。仏の三十二相・
八十種好(しゅごう)や不動十九観などがこれに当たる。造立発願者の
意向や仏師による個人差はあるものの、大枠で決まっている。
仏像は仏教思想・教義・メッセージを伝えるために造立されている。即ち、
仏教の二大テーマ(二本柱)である「慈悲」と「智慧」(②、③)と言える。
②仏教の二大テーマ・慈悲 ③仏教の二大テーマ・智慧
三尊像を例にして、解説を加えた。中尊の如来に対し、両脇侍が慈悲と智慧を
分担している。阿弥陀如来では慈悲の観音、智慧の勢至(④)。釈迦如来では
智慧の文殊に、慈悲の普賢(⑤)。
不動明王が中尊の場合においても、慈悲の矜羯羅童子、智慧の制多迦童子と
なっている。更には不動明王の持物においても、智慧の宝剣と慈悲の羂索とで
それぞれを象徴している(⑥)。
胎蔵界曼荼羅や金剛界曼荼羅についても同様なことが言える。時間の関係で
講演会では割愛となった。
④三千院・阿弥陀三尊像 ⑤法隆寺上御堂・釈迦三尊像
⑥不動明王 二童子像
3.仏像の観方・楽しみ方についてのまとめ
2009年に東京博物館で「阿修羅展」が開催され、仏像好きが一気に増え、
今日の仏像ブームとなった。その仕掛け人が興福寺貫主の多川俊映氏。
その多川氏が最近の著書「仏像 みる・みられる(角川書店)」で苦言を
呈している。
私たちは、直ぐにこの仏像はいつ頃の作だろうか、誰の発願だろうか、材質
は、仏師は、と仏像についての予備知識を得てから観ようとする。
(文化財として見る限りおいては当然のことと考える。)
多川氏は著書で次のように言及されている。
『誤解を恐れずにいえば、基本データは邪魔でさえあり、むしろ何の予備
知識をも持たずに、ただそのままに仏像の前に立てばよく、そして、ただ
ただ仏像をみつめればよいと思うのです。
そうしたところに、おのずから心の変化を促す契機があると思うのです。
唐突ですが、そのことを空海の言葉を借りていえば、「虚往実帰(虚しく
往きて実ちて帰る)」でしょうか』
仏像に何を求めるかによって、観方・楽しみ方も変わって来る。最後に
空海の言葉(⑦)をご紹介して、講演会を終えた。
⑦空海 般若心経秘鍵から
4.お礼
今回の講演会開催に当り、山口博正さんと幹事の若狭茂さんには2月に
お会いして以来、大変お世話になりました。厚くお礼申し上げます。
講演会終了後は、杉並稲門会 会長の久保田さん、副会長の前坂さん
とも、コーヒーを飲みながら楽しいひと時を過ごさせて頂きました。
また、小生所属のNPO団体メンバー、関さんや青野さんも講演会最後
まで、お付き合い頂きました。すべて仏縁と感謝!(合掌)