2020年9月15日火曜日

中尊と脇侍・眷属<廬舎那仏>


今回のテーマは東大寺大仏でお馴染みの「廬舎那仏(るしゃなぶつ)」。

サンスクリット語の「ヴァイローチャナ」が音訳され、「びるしゃな」。
漢字で「毘盧舎那」または「毘盧遮那」と表記され、「毘盧舎那如来」、
「毘盧舎那仏」となる。更に、略して「廬舎那仏」。

「ヴァイローチャナ」の意味は「光明遍照(こうみょうへんじょう)」。
廬舎那仏は釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来と性格が異なり、いわば
宇宙の真理」「仏法そのもの」「法身(ほっしん)の釈迦」を意味
する。

廬舎那仏を中尊に、決まった形の三尊像があるようには思われない。
そこで、今回は、東大寺大仏殿と唐招提寺金堂の尊像配置に注目して
整理してみた。

1.東大寺大仏殿 唐招提寺金堂の廬舎那仏像と脇侍像
 中尊と脇侍(脇仏)と言う関係で尊像配置を眺めると、東大寺では
 如意輪観音虚空蔵菩薩であり、唐招提寺では薬師如来千手観音
 が脇侍となっている(❶、❷)。

 このような配置をどう理解するか。東大寺の場合、如意輪観音は、
 「慈悲」の象徴、「虚空蔵菩薩」は「智慧」の象徴と、釈迦三尊像
 などと同じようにも考えられる。

 一方、唐招提寺の場合は、薬師如来と千手観音であり、どのように
 理解したら良いのだろうか?
❶中尊の廬舎那仏像     ❷中尊の脇侍像(脇仏)

2.廬舎那仏と諸尊像の配置図
 現在の東大寺大仏殿には、あと2体の像、即ち広目天像と多聞天像
 が安置されている(❸)。大仏殿の諸尊像配置を知る、歴史的な
 史料がある。

 平家の南都焼き討ちで、焼失した東大寺大仏殿の仏像は、康慶、運慶
 を始めとする慶派仏師によって造立された。東大寺大仏殿図(❹)に
 よって、大仏殿の諸尊像配置と仏像毎の制作者名が分かる。更に図解
 したものが❺となる。残念ながら、慶派制作の仏像は残っていない。

 大仏殿図と現在の大仏殿を比較すると、四天王の持国天、増長天が、
 欠けている。
❸東大寺大仏殿 諸尊像

❹東大寺大仏殿図(部分)   ❺東大寺大仏殿図 解説

 唐招提寺金堂では廬舎那仏を中心に9体の仏像が安置(❻、❼)され
 ている。9体すべてが国宝に指定されている。

 歴史学者の東野治之氏は「廬舎那仏、薬師如来、千手観音の三尊形式
 は珍しく、仏教の教義でも説明できない」。更に、「東大寺に日本初
 の戒壇院が作られ、その他に、下野薬師寺と大宰府の観世音寺に設置
 された。このことを象徴しているのではないか」とされている。

 また、歴史小説家の永井路子氏は著書『氷輪』の中で「廬舎那仏を
 本尊に、薬師を東方に、観音を西方にというのは鑑真自身の宗教的
 世界観に基づく構想だった。観音は阿弥陀の代り」と書かれている。

 永井氏は更に「東大寺の大仏は『華厳経』の教義に基づくものだが、
 唐招提寺のそれは、戒律の根本経典の一つである『梵網経』の世界
 を顕現している」とされている。

 華厳経と梵網経の違いは良く分からない。共通するのが廬舎那仏と
 蓮華蔵世界のようだ。そこで、蓮華蔵世界についてまとめたい。
❻唐招提寺金堂内陣      ❼同左 諸尊像配置

3.廬舎那仏と蓮華蔵世界
 廬舎那仏の光背に付着している化仏(❽)は何か?
 「廬舎那仏の肉髻から生まれた釈迦如来。」
 
 東大寺大仏殿、唐招提寺金堂の中は、釈迦如来で満ち溢れており、
 その一部が光背に掛っているとも言える。
 
 蓮華蔵世界とは蓮の花の中に須弥山がそびえ、一つの小世界を形成
 している。一つの小世界に一人のお釈迦様が現れる。1000の
 小世界を小千世界と呼ぶ。1000の小千世界が中千世界となり、
 1000の中千世界が大千世界となる。

 大千世界とは小千世界が10億(=1000×1000×1000)となる。
 「三千大千世界」の「三千」とは「千の三乗からなる」の意味で、
 大千世界が3000あると言う意味ではない。

 この三千大千世界の中心に存在する仏様が廬舎那仏となる。「宇宙
 の真理」「仏をを統括する仏」「仏を生み出す仏」と言える。大乗
 仏教で、無数の仏・菩薩が生れ、整理がつかなくなり、統括者とし
 て廬舎那仏が生れたとも聞く。

 蓮華から世界が生れ、世界は巨大な蓮華の中に存在するように、
 廬舎那仏から世界は生まれ、かつ世界は廬舎那仏に包まれると
 言う構造になっている。これを「梵我一如(ぼんがいちにょ)」
 と言うようだ。

 また、「一即一切・一切一即(いちそくいっさい・いっさいいち
 そく)」とも言う。あらゆるものは平等に密接に関係し合っており、
 全体の中に個があり、個の中に全体があると言う意味とのこと。
 宇宙の中に個人が存在し、個人の中に宇宙がある関係と言える。
❽廬舎那仏の光背     ❾蓮華蔵三千大千世界

 東大寺大仏台座の線刻(❿、⓫)には蓮華蔵世界が表現されている。
 ⓫図では全体を眺められる。最上層に釈迦仏が22体の菩薩と共に描か
 れている。最下層に7つの蓮華座、中間層に25層の天がある。

 最上層は小世界であり、中間層、最下層は小千世界の一部を
 イメージしたものと思われる。
❿東大寺大仏台座の線刻     ⓫同左の線刻全体図

先日、NHKBSで再放送の「大仏開眼」前編・後編を2週連続
で視聴した。大仏造立をめぐる人々の夢や野望を描いた歴史物語。
飢饉や天然痘が流行し、死者が続出した時代と、コロナの現在と
重なり、見応えがあった。

また、身勝手な権力で国を支配しようとする藤原仲麻呂に対し、
律令の法による政治を行おうとする吉備真備との抗争の様子は
縁故優先と立憲主義かを問う今を見ているようだ。吉備真備の
勝利となり、留飲を下げた。

【中尊と脇侍・眷属シリーズ 続く】





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